sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

12月の出来事

sayakot2010-12-11

早いもので、もう年末、、、。毎年この時期になると同じことを言っている気がするけれど、年々、時間の経つ早さが加速しているような。特にこの1ヶ月は心を落ち着かなくさせる出来事がいくつかありました。


先週、ベースライン調査の質問票の「プレ・テスト」を行うために、アジスアベバから90km離れた幹線通り沿いの小さな町の、乳製品を販売している組合を訪ねてきました。ベースライン調査というのは、プロジェクトの開始時に行う基礎調査のことで、プロジェクト終了後に同様の項目を調べて結果を比較することで、最終的なプロジェクトのインパクトを計ることができます。調査内容はプロジェクトの目的によって様々ですが、わたしのプロジェクトの場合は、対象9組合の継続的な農産品加工の活動を通じて、最終的に組合員の女性たちの暮らしがよくなることを目指しているので、一つは、組合組織に向けた、資産や年間収支、メンバー数や活動内容に関する「組合用」調査がベースとなり、もう一つは、各組合メンバーを対象とした、家庭の家族構成、子どもの就学状況、日々の食事の質と量、資産、年間の収入・支出内訳から、組合の活動に費やす時間とコスト、家族のサポート状況等を調べる「組合員用調査」の、計2種類あります。


今回の「プレ・テスト」は、実際に対象グループに対して本格的な調査を行う前に、作った質問票がちゃんと機能するか―――農村の女性達にも意味が通じるか、質問に曖昧さがないか、時間がかかりすぎないか等を調べるために、プロジェクトの対象組合とは異なる組合で、実際に試してみるために行ったものです。サンプルとなる組合は、1)農産加工に関する組合で 2)対象組合にできるだけ近いメンバー構成で、2)しかもアジスアベバ近郊、という条件で、協力機関である農業省に探してもらいました。農業省からもらった最終的な候補リストには計8組合が記載されていましたが、いざ各組合に連絡してみると、組合としての登録が済んでいないもの、活動さえはじまっていないもの、アジスから400km以上離れているところ等々、サンプルに適さないところばかりで、結局ほぼ自動的に、前述の乳製品加工組合を訪ねることに決まったわけです。



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乳製品加工組合と聞いて、わたしは勝手に大きな加工センターを想像していたが、いざ出かけてみると彼らの作業場は、薄い金属シートのとたん屋根をした隙間だらけの小さな小屋に、大きなミルク缶が2,3と冷蔵庫が一つ並んでいるだけの場所だった。現在組合が商品として販売しているのは、グラスでの計り売り形式の生乳と、ヨーグルトのみ。地域の生産者団体から毎朝生乳を買い取り、雀の涙ほどの利益を上乗せして、一部をそのまま生乳として、一部をヨーグルトにして売っているのだという。正直、繁盛しているようには見えない、というのが第一印象だった。


組合用の調査に回答するために集まってくれたのは、50代半ばの組合長(男性)、同じく50代半ばでキリリとした女性秘書、ぱっちりと大きな目をした4ヶ月の赤ちゃんを背中に背負った会計担当の女性、そして一般組合員の女性の計4名。前者の2人はほころびたスーツを着て、少しだけ都会的な感じがしたが、後者の2人はいかにも農村の女性という身なりで、着古したシャツとスカ―ト、そしてぼろぼろのサンダルを履いていた。


わたしはまず、4人が忙しい中集まってくれたことに対する御礼と、今回の調査の概要を簡単に説明して、バトンをエチオピア人スタッフに渡した。アムハラ語はもちろん分からないが、わたしのために会話を全て英訳してもらうと会話の流れが止まってしまうので、わたしはスタッフが英語で記入する回答を横から覗き見しながら、どのような会話が交わされているのかを目で追い、記載が不明瞭なところで時々口をはさむような形をとった。


さて。


「組合員になるための要件はなんですか。」
HIVポジティブ(陽性)であることです。」


思いがけない返事に、ドッキリした。
エチオピアでは、「HIVで一族が全滅した」「村が全滅した」、そうした類の話は他のアフリカの国々に比べて聞く機会はあまりないと感じるが、一般に公表されている数字よりもその率ははるかに高いらしいという話は聞いていた。また、以前アジスアベバで出会った青年海外協力隊の隊員からも、彼女がHIV感染者による手芸品の販売グループを支援しているという話を聞いたことはあったけれど、通りすがっただけに近い、このごくごく普通の貧しい町で、そうしたコミュニティに出会うということに、正直驚いてしまった。もちろん見た目でわかることはないし、この質問項目がなければ、最後まで気づくこともなかっただろう。


そしてそうわたしが内心驚いている間にも続くインタビューの最中にも、合間合間に授乳している会計係の女性を見ながら、赤ちゃんには感染していないのだろうか、この子が大きくなるまで、彼女は健康でいられるだろうかと、おさえようとしても勝手な想像が先攻してしまう自分がいた。


彼らから聞いた話では、この組合は、数年前、米国系のNGOHIV感染者の雇用促進と収入創出を目的に数年前に組織したのが始まりだそうだが、地域の生乳の供給量が不十分なために、十分なストックを店に置くことができず、20名強の組合員には、週に1度のシフト労働しか提供できていないそうだ。そして毎月個人に還元される報酬は16ブル(約80円)程度にしかならない。シフトに来るための交通費や食費代を考えれば、利益があるのかさえあやしいラインだ。最初に彼らたちを組織したというNGOの無計画性に憤りを覚え、いくら貧しい田舎町でも、月80円の収入しかもたらさない組合で、なぜ彼らが働き続けるのか、わたしは理解に苦しんだが、今後わたしたちが彼らを支援できる見込みもないのに、部外者が踏み込む事ではないと判断して、追究しなかった。
今後のビジネスの展望はと聞くと、もっと生乳の供給が確保できて、機材をそろえられたら、チーズ作りにも手を出したいと組合長は言っていたが、現状の運営の様子を見る限り、彼らがそのステップに踏み出せるのはまだまだ先なのは明らかに思えた。


インタビューはやがて、組合員用の調査に続いた。答えてくれたのは、先ほどの会計係の女性。家計調査のセクションで、医療費について尋ねると、治療にかかる医療費は全て無料なのだという。アフリカのHIV対策支援は一昔前から、最もホットな開発援助のテーマの一つだが、実際にこうした田舎町にまで行き届いているのには意外な感じもしつつ、ほっとした。もっとも質や量が本当に十分なものなのかは分からないけれど。


栄養摂取の項目。牛肉や羊肉はどれくらいの頻度で食べるかという質問に、月に1度と答えた彼女は、続いて、鶏肉は年に2回、新年とマスカル祭のときに食べるわと答えた。
よく言われる事だけれど、国連やNGOのレポートで連発される「絶対的な貧困ライン以下」の生活が、実際どのようなものかというのは、数字や統計だけで見えてくるものではない。こうして目の前で当事者の話を聞いていても、それをリアルに理解するのは難しい。ただこのとき、どれほど貧しくても特別な日だけはささやかに祝おうとする人々の生活が、少しだけ見えたような気がしたのは確かだ。


負債のセクションでは、彼女は1年前、小さなビジネスを始めるために1000ブル(約5000円)の小額のクレジットを借り受けたが、それらは結局すべて食費や日々の諸費に消えてしまい、今は毎月150ブルの返済金が積み重なっているのだということを答えてくれた。


実はプレ・テストを行う前、SAAのモニタリング評価事業部のディレクターのケニア人J氏に、調査をするにあたってなにか注意をすることはあるかねと聞いたところ、こんなことを言われていた。「プレ・テストを対象グループ以外に行う時は十分に気をつけた方がいいよ、中にはそれはモラルに反すると考える人たちもいるくらいだから。彼らの現状を聞き出したところで、プロジェクトの対象外である以上、改善してやることはできないのだからね」と。
その意味がよく分かった気がした。


質問項目は、本当はまだまだ続くはずだった。だが、6段の階段の絵を見せて、自分は周囲と比べて何段目(レベル)にいると思うかという「自分に対する自信の度合い」の項目が終わった後、もうそれで限界な気がした。さらに踏み込んだ質問があったのだけれど、質問自体は複雑なものではなかったし、あえて彼女に聞く必要はないと思った。スタッフも同様の判断だった。帰りの車中はみんな言葉少なかった。いまもどこか無性に重たい気持ちが残っている。


もしこの組合がわたしの担当するプロジェクトの対象グループだったら、わたしは彼女達が抱えているものの大きさに、どこまで正面から向かい合えただろうか、どれだけの変化を共に生み出す事ができるのだろうか。そしてプロジェクトの対象組合の女性達も、皆いつも明るい笑顔を見せてくれているけれど、彼女達でさえ、それぞれにどれだけのものを背負っているのかは、わたしに見えていないだけで、存在しないということではないのだろうということに、気づかされる機会となった。そうしたものを含めて、彼女達と向き合わなければならない。


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関係ないけれど、一昨日から愛用のマックのラップトップがちょっと壊れてしまいました。USB、ポータブルモデム等、外部のデバイスを認識しなくなったので家でネットが使えない状況。今は近所のホテルのラウンジに忍び込んでいますが、とても不便。。。昨日はアジスで唯一のアップルストア(があったこと自体、ミラクル)に持っていったのだけれど、彼らは中を開けてハードウェアの修理することは許されていないそうで、基本的にアメリカに発送することしかできないそうな。日本に帰国したときに直すのが一番早いと思うよとのこと。とはいえさすがはアップルストア、カジュアルでフレンドリーで、今ドキ風のお洒落な店員さんでした◎