sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

最近のハノイ生活 (ダイジェスト版)。

sayakot2008-07-13

日記はなかなか更新できていませんが、元気にやっています。ハノイに着いた当初は、これは先が思いやられるぞ・・・と小さな不安が過ぎったものですが、ふと気がつけば、すでに3週間。修士プログラムの終わりが近づくにつれ、時間が加速度的に過ぎていくような気がするのはなぜでしょう。


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朝は大体、6時半に目を覚ます。シャワーを浴びて、メールをチェックして、朝食代わりのコーヒークッキーと、インスタントのベトナムコーヒーを慌しく流し込み(最近それで2回ヤケドしましたが。。。)、家を出るのは7時45分。門を出た先には、タバコをくわえたバイク運転手のチンさんが、すでに待機していてくれて、そのまま彼の後ろに乗って、ブーンと出勤。


ちなみに今は、どこに行くにも、メード・イン・ジャパン・ARAI製のマイヘルを持参している。
夏場でも嬉しい冷感素材で、内部のムレを防ぐダクト付きの、この高性能フルヘルメット(!)は、この国の人々が通常使っているそれと比べると、見た目にあまりに大ゲサで、それが自宅に届いた当初は、正直、若干の気恥ずかしさがぬぐえなかった。それでも、「品質基準」というものが存在しているのかしていないのかよく分からないこの国の、いかにも頼りない、薄くて軽いヘルメットを見ると、やっぱり命には代えられないなと、毎日ありがたく着用している。


実際、走行時のヘルメット着用率99%であるこの国の、その「質」に対するアバウトさは、なかなかのもの。これは友人の実体験だが、先日彼女がバイクタクシーを利用した際、運転手から渡されたのは、小学生の運動帽のようにのびきったゴムバンド付きのヘルメットだったとか。風で容易に飛ばされてしまうので、片方の手は常にヘルメットを抑えていなければならず、その分、体の安定感が少しワルくなってしまうという、ちょっと考えものなシロモノ。中には、ゴムバンドどころか、本当にただ頭に載せているだけ、という運転者も少なくなく、「規則だからとりあえず」という人々のマインドセットを象徴している感じがしなくもない。


SCJのオフィスでは相変わらず、過去のプロジェクト資料の整理統合と、ドナーに向けた活動紹介の資料などを作っている。今月末には初めての「現場」に行くことも決まったので、今のうちにプロジェクトの全体感を把握して、現地に行ったとき、目の前で一体何が起こっているのか理解できるようにしたい。わたしの机の上は常に、過去の一連の資料―‐提案書や、プロジェクトサイトの事前調査データ、モニタリング評価報告書など――が山積みで、これらの情報と、国際機関――例えばWHOやUNICEF、UNESCO、UNDP、ADB(アジア開発銀行)が公開するマクロなデータとを、入れ替わりにらめっこする。もちろん、ベトナム政府関連の機関が発表する情報なども重宝するのだが、ベトナム語版しかないものも多く、そのたび、隣の席の、ベトナム人インターンの女の子にお願いして訳してもらっている。


もっとも、こうした政府系のデータは、国際基準とは異なる方法で算出されているものも多いため、例えば「貧困率」とか「就学率」という、一見シンプルそうなデータさえ、例えばユニセフが発表するベトナム情報とは全く異なるということが、しばしばある。こういうとき、一体どちらが「正しい」情報を発信しているのかと、ついついジャッジを下したくなってしまうのだが、同時に、こうした数字の大小に、あまり惑わされずにいたいとも思う。たしかに、この国の子どもの栄養失調率が、33%なのか、21%なのかとか、幼稚園への就園率が96%なのか41%なのかというのは、極めて大きな違いのようにも感じられるし、「客観的なデータ」の重要性はいうまでもないけれど、一方で、人々の営み全てを、一つの指標が完全に捉えることは――それが国際機関のものであろうと、政府のものであろうと――不可能であることも、また事実ではないだろうか。そんなことを頭の隅に入れながら、そのデータの背景にある社会の現実を、いかにダイナミックに理解することができるか、それが今後の自分の課題かもしれない。


お昼は毎日、オフィスの台所で、食事担当のニャーさんが作ってくれる。高校生になる娘さんのいるニャーさんの作る家庭料理は、いつも本当に美味しく、11時くらいになると、キッチンから台所の音が聞こえてきて、いい匂いがオフィスを充満する。今日のメニューは何かなと想像するのは、日々のささやかな楽しみでもある。献立は大体、白いご飯に、空芯菜の炒め物など野菜系のおかずが一品、豚や牛、あるいは海鮮など、動物性たんぱく質系のおかずが一品と、野菜のゆで汁をベースにしたあっさりスープ、というヘルシーでバランスのとれたもの。そして食後には、季節の果物である、ライチやマンゴー、というのが基本の構成。オフィスには大体15人くらいのスタッフがいるのだが、お昼を食べに自宅に帰るスタッフも多いので、オフィスの食卓に座るのは、大体いつも、6〜10名くらい。これがまた、家族のようでなかなか楽しい。一食は1ドル弱で、月初めに、ひと月分をまとめて支払うことになっている。こうしたスタイルは、ベトナムの企業では一般的らしい。


17時を過ぎると、運転手のチンさんに “Don em ●:●●” (●時●●分に迎えにきてください)という、お決まりのフレーズをメールする。そして1分も経たないうち、“OK”との答えが返ってくる。
オフィスの仕事はとても気に入っているし、長時間勤務が多かった前職からのクセか、少しのめりこみだすと、勤務時間が過ぎてもそのまま続けてしまいたくなる誘惑にかられてしまうことも、しばしば。だがこの国では、オフィスアワー中はとても勤勉なスタッフも、17:30を過ぎると、皆、パタリと作業を止めて、続々と家に帰り出す。そして、18時にもなれば日本人スタッフを除いて、誰もいなくなってしまう。フィリピンでも、コスタリカでもそうだったが、この国の人たちもまた、「仕事は好き。だけど、家族との時間やプライベートも、同じように(あるいはもっと)、大事。」という線引きが、とても明確なのである。仕事後、たまに同僚と飲みに行くことはあっても、1時間か2時間、ビールを飲んで、ご飯を食べて、ひとしきり話をしたら、その後はみんな、サクッと家に帰るというのが基本のようだ。


仕事が終わった後、じゃあ今日はこれから何をしようか――と、あれこれ想像を膨らませる「ゆとり」がある、このライフスタイル。甘やかされ過ぎて、まるでパラダイスだなと、最初はなんだか申し訳ないような気がしたが、3週間も経つと、これは「楽園」でもなんでもなくて、これが、本来あるべき姿なのかもしれないと思えてきた。日本でも最近は「ライフワークバランス」という言葉が流行っているようであるけれど、それを実践できている企業(人)は、果たしてどれだけあるだろう。あと、もう少し時間があったら、残りの仕事も終わらせられるのだけどなあ・・・そんな気持ちをぐっと抑えて、明日、すっきりとした頭でビシッと終わせよう、そう心に決めて、サクッと家に帰るのは、実際なかなか快感だ。仕事に対する効率も成果も、その方が実は良いに違いない、というのは、自分を正当化しているだけかもしれないが。。。


チンさんのお迎えで家に帰宅してからは、少し遅れて、わたしの「アフターファイブ」が始まる。これがまた、本当に楽しい。最近は国連や国際NGO、民間企業の方たちの様々なコミュニティに参加させていただいて、夜な夜な、生春巻を食べたり、ハノイビールを飲んだりしながら、遅くまでいろんな方のお話を伺う機会が多い。中でも特に、今まで自分が大学院の中で学んできたことを、実際にお仕事として活躍されている、<国際協力/開発の領域>の方たちのお話は、やはり刺激的だ。


もちろん、一口に<国際協力/開発のフィールド>といっても、その領域は実に幅広い。例えばそれは、途上国の工業開発の促進による経済支援なのか、HIVの予防やケアといった、公衆衛生に関する政府への提言なのか、災害時の緊急援助なのか、マイクロファイナンスに関連したODA(政府開発援助)なのか、はたまた、徹底的な草の根レベルで、日本式の合鴨農法を導入して、サステイナブルな農村開発を目指すのか、あるいはSCJのように、草の根で子どもの教育や保健をテーマに、幅広く展開するのかという違いであるし、「教育」だとか「医療」だとか、テーマこそ同じであっても、それが国際機関なのか、政府系機関なのか、あるいはNGOなのかによって、活動の具体的な活動内容やプロジェクトの進み方はもちろん、インパクトの対象も規模も、全く違う。そして当然ではあるけれど、それぞれの組織によっても、独自のフィロソフィー、あるいはイデオロギーがあるので、同じ事象に対しても、課題の定義づけや、対処のアプローチがまったく違ったりなどして、時にはぶつかりあうことも珍しくない。とはいえ、そうした実際の様々な違いにも関わらず、どの分野の、どの組織の、どの方のお話を聞いていても、同様に興味深いというのは、いつも共通している。


よく、そうしたエキスパートの方たちに、自分も卒業後は<開発のフィールド>で働きたいのだとお話すると、ではあなたはどの分野に興味があるのですか、どの地域に興味があるのですかと、必ず聞かれる。そしてそういう質問をされるたび、どこか困惑してしまう自分に気付くのである。「理想をいえば、私はアジア地域での、フェアトレードや、マイクロファイナンス等の、経済的エンパワーメントを通じた、貧困削減のアプローチに興味がある、そして更に、グローバルな問題に対する、先進国の人々の “意識”を高める活動にも携わっていきたい、例えば企業のCSR活動をより活性化させる形で――だけれど、正直なところ――今の段階では、仕事のチャンスさえあるならば、どの分野でも構わないんです」と。そして自分の中ではそれは、妥協でもなんでもなくて、率直な感覚として、どのような分野であれ、まずはこの、<国際協力/開発>という大きなフィールドでの「とっかかり」を掴んで、そこから次へとつなげて、広げていくことが、今後の自分にとって必要なプロセスであると思うからだ。そして単純に、<このフィールド>に立っていられるというだけで、それがどの分野であっても、自分はきっと幸せだという確信があるからだ。


ハノイでのインターンシップ生活が始まってからというもの、日々、SCJオフィスで過去のプロジェクトを振り返りながら、今後、例えばSCJとして、ベトナムに拠点を置く日系企業に対して、どのような働きかけができるだろうか、とか、そのために自分に一体何ができるだろうか、と勝手な思考を張り巡らせるとき、そして、「この道のプロ」の方たちと、毎晩、「新入り」なりに意見を交換したりするとき、自分が本当に、<このフィールド>に足を踏み入れ始めたのだなということをしみじみ実感し、深いところで感慨のような、幸せをいつも感じています。


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写真は、生春巻き「ゴイクン」に似た、「フォークン」と呼ばれるもの。
モチモチした皮と、中に入ったしゃきしゃきの香草とビーフ、そしてピリ辛のタレとが絶妙にからみあいます。
ベトナム人の友人が、「地元で評判の店」に連れてってくれました。