sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

あるラテン系セクシー・ソーシャル・アントレプレナーから学んだこと

sayakot2008-02-04

今回ご紹介するのは、コスタリカの若き社会起業家、ホセ・アギラール青年。
ソーシャル・アントレプレーナーシップ講座3人目のゲスト・スピーカーとして私たちの教室に招待された彼は、コスタリカ人には珍しい長身で、いかにも育ちの良さそうな美しい英語を話した。若干29歳という彼は、傲慢さのかけらもない清々しい自信に満ちていて、しかもとてつもなくセクシー。プレゼンテーションを聞きながら、天は二物も三物も与えるものだなぁと、ホレボレ見とれてしまったのは、わたしだけではなかったハズだ。


。。。
そんな話はさておき、ホセが2006年に立ち上げた非営利組織、『青少年のアクション基金(Fundacion Accion Joven)について紹介したい。彼の団体は、コスタリカ国内の貧しい地域の公立高校に対し、大学生をボランティアのチューターとして派遣し、高校生に授業の補習を提供する活動を行っている。


中米でもトップクラスの経済力を誇るコスタリカだが、国内の経済格差は、拡大傾向にある。しかし、自らが「中流以上」であることに誇りを持つ人々が多いこの国では、下流層に対する「無関心」がとても露骨だ。わたしのような外人の目には、両者を隔てる断絶はとても深く、それらが互いに交わることはほとんどないように映る。


実際、全体的に決して「裕福」とは思えない、コロン町に住む人々の話を聞いていても、顔の見えない「下流層」に対する彼らの典型的なイメージは、こうだ。「貧しい」に始まり、「危ない」、「ドラッグが横行している」、「肌が黒い」、「夜中でも音楽を大音量で聴いている」、「子供が多い」、「ドメスティック・バイオレンスの文化がある」「ニカラグアからやってきた」等々―。誰に聞いても、似たりよったりで、まるで別の世界に住む人々のことを話しているようだ。社会の弱者であるとか、状況を改善するために何かすべきだとか、建前としてのシンパシーさえ、あまり聞こえてこないのである。


そんなコスタリカでは、学生に対し、年間150時間の地域奉仕(Trabajo Comunal Universitario)を義務付けている大学が多いが、
現実は、学生側のモチベーションの低さと、受け入れ体制の不十分さゆえに、形ばかりの活動がわずかになされているに過ぎないのが実態だった。


特権的なキャンパスライフをのびのびと謳歌する中上流層の学生たちにとって、「社会」とは、彼らに輝かしい将来の成功を約束し、
それを実現させる場所に他ならない。彼らの多くは、その底辺に生きる人々の存在にまったく気付かないまま巣立ち、それぞれの最先端の領域で、活躍していくことになる。その一方で、進学率が極端に低い地方では、「高校」までの一応のインフラがあったとしても、多くの生徒たちが、そこで得られる教育の価値と、そこから生まれうるチャンスの大きさを真に理解できないまま、周囲に流されるようにドロップアウトしていくケースが非常に多いのだそうだ。


国の未来を担う若者たちこそ、社会の本当の現実を知るべきなのではないのか―。
彼らにできることが、もっと何かあるはずだ―。


『青少年のアクション基金』は、ホセのそんな想いから始まった。
2つのコミュニティの接触は、単に強者から弱者への「施し」を生むのではない。チューターとなる大学生たちは、事前のトレーニングを通じて、“Change maker”としての自らの役割を学び、現場で実際に、目の前の一人ひとりの子供たちに自分が与えることができる力の大きさを知る。また、地域の高校生たちは、学びの面白さを発見すると同時に、社会は、大人たちは自分たちを気にかけてくれているのだという、自尊心を獲得するのだという。


だがプロジェクトの立上げは、最初「何もかも」うまく行かなかったらしい。
その情熱以外に、何の実績もなかったホセ青年にとって、下流層の窮状への無関心が支配的なこの国を動かすことは、並大抵のことではなかった。団体の活動を、大学の地域奉仕活動と公立高校の補修コースに正式に組み込むための仕組み化、企業への寄付の呼びかけや、政府に対する助成金の申請―。計画は遅々としてすすまなかった。
組織立上げのために政府に提出した書類は、手続きの途中で、なんと7回紛失されたそうだ。「今となっては、全部笑い話だけどね。」とホセはおかしそうに言って、「でも―。」と急に真面目な顔になる。


“Don’t expect people to collaborate with you from the beginning.
(最初から周りが協力してくれるなんて、思っちゃダメだ―。)”


彼の語調が、ここで急に強くなった。


「新しい何かを創造するとき、それが仮にどれだけ素晴らしいアイデアであったとしても、その意味を最初から本当に理解して、本気で協力してくれる人なんて、なかなかいるものではないんだ。だから辛抱強く、そして戦略的に、自分の情熱を、皆がちゃんと理解できるような言葉に『変換』して、説得する必要があるんだ。そうすればいつかは必ず、分かってもらえるはずだから―。」


ホセのプロジェクトは、現在、教育省と複数の大学からの全面的なサポートを受けて、地域的広がりを見せつつある。企業からの支援のオファーも増えつつあり、ホセは、チューター活動の中で、優れたパフォーマンスを見せた大学生たちに対して、協力企業への就職の斡旋をするなど、ユニークなWin-Win-Win の仕掛けを生み出した。更に彼は、世界レベルでの社会起業家支援とネットワーキングを行っている団体として名高い、アショカ財団の「アショカ・フェロー」としての認定も受けた。


コスタリカにいると、多くのことが「ボチボチでOK」的なのんびりさで進んでいて、何かこう、強烈な意思に裏付けられた、「変化」への
「うねり」のようなものを感じる機会が極端に少ない(もちろんわたしの限られた語学力とネットワークの中での感覚なので、当てにはならないのだが)。だからそうした中で、今回のホセのような、いわゆる上流社会に属する青年が、こうしたプロジェクトを一人で立ち上げ、国を動かし、その成果が実を結び始めているというのは、とてつもなく素敵なことのように思えた。


大きなインスピレーションを得た、素敵な1日でした♪