sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

Take Back the Night!

sayakot2007-12-05

先週、平和な「はず」のキャンパスライフで起きた、ある事件。


同じ学科に所属するアメリカ人の友人(♀)が、コロン町の自宅で、深夜2時、裏口から侵入
してきた男に襲われたのだ。「人生最悪」という恐怖心を必死に押し殺し、彼女は、相手が
油断した一瞬の隙をついて脱出。すんでのところで、近くに住む家主の敷地に駆け込むことができた。犯人は、彼女自身の証言で、近隣に住むドラッグ常習者とほぼ断定されているものの、もろもろの「コスタリカ的」理由で、司法手続きが遅れており、いまだ逮捕には至っていない。


コロン町は、豊かな緑に囲まれ、犬や鶏が走り回る牧歌的風景に囲まれているが、それでも、現実が目に見えているほどのパラダイスでないことは、時折忘れた頃に耳に飛び込んでくる、空き巣や交通事故の多さからも明らか。誰もが互いを知る小さなコミュニティだけに、
事件のインパクトは決して小さくはないが、それでも、そういう意味において、学生を始め、
周囲は比較的冷静に事件を受け止めているようにみえる。


だが何より驚かされたのは、事件の翌日には、被害にあった本人が、学生全員のメーリングリストに、その恐ろしい体験の一部始終を記し、さらに「私はこの事件を皆に伝えることをためらうつもりはないし、この町で私たちが安全に暮らすために何かが為されるまで、声高に叫んでいくつもり」と、その明確な意思を示したことだった。短期の記憶障害、フラッシュバック、悪夢など、様々なPTSDに今だ悩まされながら、彼女はすでにキャンパスで2度のミーティングを主催し、確実に前に動き出している。事件発生から、一週間も経っていないにも関わらず。


昨日、そのミーティングに参加してきた。議論は、この町で自分たちの身を守るために何ができるか、という視点から始まり、護身術の短期講座の運営、近所に住む学生同士での「集団下校」の可能性、警察やカウンセラー、スペイン語のアシストなど、緊急時の連絡先の再共有、そしてホストファミリーや家主たちに対する危機管理意識向上のための会合のアレンジ、さらに来年度以降の
学生たちに向けた情報共有の仕組みづくりなど、様々な提案が次々と挙がった。


やがて議論は、ひとつの方向性に行き着いた。それは、2008年3月8日国際女性デー(International Women’s Day)に、コロン町でマーチを行うという、いかにも国連平和大学のそれらしいイベントの開催。この出来事を「一外国人学生のアンラッキーな出来事」に終わらせず、コロン町、さらにはコスタリカ全体としてのセキュリティ向上と人々のアウェアネスを高めるきっかけにしよう、という野心的な働きかけだ。


マッチョイズムの風土が強い中南米では、女性に対するDV(家庭内暴力)や性的暴力が、欧米のような「先進的」社会に比べ、
表に出にくい現実がある(と言われている)中で、「今こそ私たちが立ち上がるべきよ、泣き寝入りなんて絶対にしない―。」彼女からは、どこか執念にも似た、使命感が伝わってくる。「Take Back the Night!(あの夜を思い出せ!)」は、そんな彼女が名づけた、このマーチの名前だ。そのメッセージに共感した学生たちの間で、またたく間に委員会が形成され、そして、コミュニティに影響力を持つ
教会や学校、政治家へのアプローチ方法や、サンホセ拠点の女性団体や一般市民を巻き込むためのメディア戦略、フライヤーや
ポスターの制作、専用ウェブサイトの立ち上げなどが、その場で次々と決定した。


経験を内面化(internalize)する方法は、人それぞれ。「泣き寝入り」の反対は、必ずしも、バナーを持って町を練り歩くこととは限らないかもしれないが、「人生最悪」という出来事から、これほどの「ポジティブ」なエネルギーを創りだす彼女の姿勢には、
ただただ圧倒された。組織とは、彼女のような強烈な主観から生み出され、世の中というのはこうして変えられてきたのかもしれないと、ふと思った。