sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

調査もろもろ

sayakot2011-02-20

6組合目のベースライン調査が終了。
気づいてみればプロジェクトが始まってからもう4ヶ月半。とにかく早く研修をしてほしいと苛立ちを見せる女性メンバーたちに、この調査の結果がとても大事なので、お願いだからもう少し待ってほしいと何度言ったことか。調査を通じた現状把握とニーズ・アセスメントがあってこそ、彼女たちに本当に必要な食品加工技術研修やビジネス研修をデザインでき、またプロジェクトの終わりにはその成果を計ることができる。もっとも、焦る彼女たちの気持ちはよく分かるので、わたしもこの調査の終わりが待ち遠しいのだけれど。


さて。一口に「調査」と言っても、一体実際に何をしているのかなかなか想像しづらいですよね。今回のエントリーでは、現在進行中の「調査」について、その簡単な行程とエピソードをいくつかご紹介します。


★ デザイン準備@事務所
Step1. 質問票の作成:プロジェクト目標、活動に合わせて質問項目を設計。    
Step2. レビュー&修正:内容に不明点がないか、フローに違和感はないか修正&再確認。
Step3. プレテスト:質問票のドラフトを持って、対象組合の条件に近いグループに実際に調査を試行。修正&再確認。


★直前準備@事務所
Step4. 調査対象者の選定 (組合員名簿から、約半数をランダムに抽出)
Step5. 対象組合、同地域の農業局・組合局への事前連絡
Step6. 質問票の印刷、記入用文房具類の購入


★調査実施@現場
Step7. 対象県/郡農業局・組合局へのブリーフィング
Step8. 調査員(5-6名)の選考&トレーニン
Step9. 対象者の家に調査員を派遣、調査開始(約2時間半/1家庭)
  ※ 各メンバーの自宅を知っている組合リーダーが道案内。車が通らない道は徒歩で。
Step10. 調査後の質問票の回収、内容確認(ヌケ・モレのチェック)
  ※ 4-5日間の滞在期間中に30-40家庭で実施。


◇調査員について
このプロジェクトには専属のエチオピア人スタッフが2名いるが、彼女たちだけで調査を行うのではとても人手が足りない。そこで彼女たちには監督役を担ってもらい、実際の調査はプロジェクトサイト毎に採用する5-6名の調査員が行う形をとっている。毎回現場で採用・トレーニングするのは手間ではあるが、現地の言葉や習慣、固有のコンテクストを理解する人材を現地で採用することの意味は大きい。調査員に求められるのは、短大卒以上の学歴と英語力(調査票が英語なので)、そして5日間完全に調査のために稼働できる時間。そんな人材が簡単に見つかるだろうかと最初は疑っていたが、地方には大学卒業後も就職先を見つけることができない若者が沢山いるのだ。


調査員の英語力は、地方によってばらつきがある。エチオピアの大学教育は基本的に英語で行われるので、一般には大学を卒業している=大抵の日本の学生以上に英語ができる、ことを意味している。ただ、調査員の英語のレベルが必ずしも収集されるデータの質に連動しているわけではないということはちょっとした学びだった。


例えば東部のB郡ではほとんどの調査員が国立大学出身で、皆慣れた様子で英語を話したが、海外の援助機関が多く競合しているこの地域では、調査員が「調査慣れ」しており、毎回ヌケ洩れの多いデータを収集してくるわりに、某NGOではいくら払ってくれた、某国際機関はこんなこともしてくれた、とたびたび調査費の値上げを要求された。同様の状況のH郡では、調査員が調査中に幻覚作用のある「チャット」を噛みながら寝そべって調査をしていたことが判明し、即解雇しデータを再取得することになった。


一方、もっと奥地に行くと、調査員の英語力自体にはつたなさが見られるが、雇用機会がより少なく、また「援助慣れ」がないせいか、一生懸命に取り組む姿勢が見られる。トレーニングに時間をかけ、ひとつひとつの質問の意味をアムハラ語で丁寧に説明していけば、最初の方こそ一定度のミスが見られても、慣れてくるときちんと精度の高いデータがあがってくる。データのとり直しを言いつけても、嫌な顔をせず調査家庭に戻っていく。また、「自分はこの地域出身なのに農村の生活にこんなに身近に触れたことがなかった。本当に勉強になった。」という嬉しいコメントまでくれたりして、一つのチームとしての一体感が築かれたりするから不思議だ。


◇調査対象者の反応
当然だが、対象者の協力は不可欠。2-3時間もの間、じっと座って見知らぬ調査員の質問に答え続けることはとても疲れるし、家計の収入や支出、食べ物に困ったことはあるか、子どもは学校に行っているか等々、センシティブな内容も多い。農村の女性は家族の世話、農作業、家畜の世話、水汲み等々ただでさえ忙しい上、調査日が市場の開催される曜日にあたってしまうと、負担は大きい。畑の野菜やミルクを新鮮なうちに売りにいかなければいけないからだ。


そうした意味で、調査開始前には本当に女性たちの協力を得られるか心配だったのだが、長年SAAが築いてきた信頼関係の蓄積もあり、この点についてはほとんど問題がなかった。しかし、、、。


南部のある女性グループでの出来事。女性の代表メンバー(Executive Committeeと呼ぶ)たちに情報共有をしようと調査対象者のリストを読み上げたところ、思いがけない展開に。リストに名前が挙がらなかった女性たちが、より重要なメンバーが選定されたのだと思い込み、パニックを起こしたのだ。パソコン上でランダムに選定したのだと説明しても分かってもらえるはずもなく、「組合のために一生懸命働いてきた私が何故選ばれないのか」「もう自分は組合から除名されてしまったのか」と涙目になって訴え出した。これは当たりとか外れとかではなく、そして選ばれたからといって特典があるわけでもなく、むしろとても大変なことなのだと説明しても、「選ばれた者だけが研修を受けられるのではないか」「選ばれなかった者は今後除名されるのだ」とか、憶測が一向に収まらない。


どうしたものかと途方にくれかけたとき、ちょうど、対象リストに載っていた女性2名が既に組合を辞めていることが判明。誤解を解くためにも、補充要員をどのように選ぶのか、代表女性たちにプロセスを見てもらうことにした。
まずはわたしのラップトップに保存していた組合員全員のリストを示し、彼女たちの名前が全員分、一人も漏れずに載っている事を確認させる。自分の名前を画面上に見つけてようやく自分はまだ組合の一員なのだと安心した彼女たちの前で今度は、調査対象にならなかったメンバーの名前を全てノートに書き、一つ一つくじにして混ぜた後、代表に2つ引いてもらう。そしてその場でくじを開き、書かれた名前を読み上げ、2人の名前を新たに調査対象リストに加えた。
ここまで来てようやく、彼女たちは今回の調査対象リストになんの意味も隠されていないことを理解してくれた。


しかし代表メンバーたちは、今ここにいないメンバー達はきっと同じ勘違いをして問題が起きるから、明日早朝に集会を開いて理解を求めたいと慎重に提案した。調査が女性たちの不協和を生んでは本末顛倒なので、わたしたちは即その案に同意し、翌日を待った。早朝、女性リーダーが組合員全員の前で、前日の対象メンバー選定の行程を説明し、安心して調査に協力するように呼びかけてくれ、無事に調査実施に至ったのである。


現場では、思いがけないことがしばしば起こります。調査でさえ、こんな状況なので、今後本格的な研修時期に入ったら、更にいろいろなことに気を配る必要がありそうです。


◇◇◇◇
女性たちの集会で。調査は決して「特別なメンバー」に行われるものではないのだという説明を聞く女性たち。