sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

”Take it to the Farmer”

sayakot2010-07-18

☆ ワーク2週間目(前半)
盛り沢山な一週間でした。ブログを更新する余裕もまるでなく。でも、元気でやっていますのでご心配なく。。。


◆ 7/12 (月)レセプションディナー 
(シンポジウム前日)
13-14日の2日間、わたしの所属先であるSAA主催のシンポジウムが開催されるということで、前日の12日、ヒルトンホテルにて招待客を招いてのウェルカム・レセプションがありました。先週土曜日に寸法直しに出していたエチオピアン・ドレスを仕上がり予定きっかりの16時にピックアップし、着ていきました。ハンドメイドで裾に緑色の刺繍の施された真っ白なコットンのドレスは、肌触りも心地よく、評判も上々(自賛)。こんな機会なかなかないですし、特別なエチオピア気分を満喫。


★7/13-14(火-水)シンポジウム
シンポジウムの会場は国連のコンファレンスホール。
そもそもシンポジウムは、昨年亡くなった、SAA創設メンバーの一人であるボーローグ博士の追悼記念として開催。博士は、インドやパキスタンなど、歴史的に飢饉に苦しんできたアジアの多くの国々の小麦の自給率を、化学肥料と高収量品種の導入により飛躍的に増加させ、アジアにおける「緑の革命」を導いた人で、70年にその功績でノーベル平和賞を受賞している。博士がSAAの創設を通じてアフリカの「緑の革命」に取り組みだした頃、博士は既に71歳。以来、アフリカの大地で農民と共に汗を流し、世界のポリシーメーカーや研究者たちに働きかけ、90歳を超えてからも最後の最後まで、アフリカの飢餓撲滅のために心を砕いた。


今回の講演者には、現エチオピア首相であるメレス・ゼナウィ氏(映像のみのご出演)、カーター元米国大統領、日本財団会長笹川陽平氏、エチオピア現農業省大臣、副大臣モザンビーク元大統領のほか、諸国際研究機関農業分野及び大学、JICAやUSAIDなど援助機関のディレクター陣、そして食糧分野のノーベル賞と呼ばれるWorld Food Prizeの受賞者等々が登壇。招待客はアフリカ諸国のポリシーメーカーを含め、全部で120名強。(厳重な警備体制の下、来場する車両もゲストもすべて事前登録が必要で、この数ヶ月、このシンポジウムの準備に、SAAオフィスがてんやわんやだったことも納得。)


講演のテーマは、エチオピア及びアフリカの農業政策、穀物増産・農作物加工技術のアプローチ、農業技術普及員の育成、農業に置けるジェンダー問題等々、様々。専門的な話もずいぶんありましたが、互いに重なる部分も多くあり、現代の食糧問題のトレンドが何なのかということを肌で感じることができました。


要は、これからの時代、アフリカの人口の多くを占めている貧しい農民たちが自分たちの力で貧困から脱却するには、かつてのようにひたすら増産&増産を目標とするだけでは不十分になってきているということ。土壌が痩せていて、病虫害が多く、頻発する干ばつなど自然環境の厳しいアフリカでは、化学肥料の投入や改良種子の導入等、農業の近代化が収量確保のために非常に重要になってくる。


しかし、仮に満足な量の生産を達成したとしても、今後は生産から販売までのバリューチェーンを、いかにより収入につながる形で構築できるかという、より包括的でビジネス的な視点が求められてくる。なぜなら、ただ増産するだけでは、道路網やトラックなどインフラの整っていないアフリカの地方の村々では、増産の結果地元の市場が飽和し、販売価格は下がるばかりだからだ。そしてもちろん、ある程度の近代化(必ずしも米国のような大規模機械経営化を意味するわけではなく)のためにはそれだけの投入(=現金)も必要となる。


そうした問題を解決するには、収穫後の貯蔵と加工技術の普及がキイになる。例えば、もし彼らに適切な備蓄の施設と技術があれば、虫害や湿気等による量や質の劣化を防ぎ、値段が最も下がる収穫期から時期をずらして販売できるし、更に、適切な製粉/精米等やペースト化などの技術があれば、長期間にわたり、より高価格で販売できる。機械化は、時間と労力を大幅に節約する上、牛やロバによる脱穀など伝統的農法によって生じていた純度や衛生の問題も克服する。


農業について、今よりももっともっと素人だったときは、近代技術の導入により、農民たちを市場経済の荒波に巻き込んでしまうリスクについて漠然とした不安を持っていたが、アフリカの現状について少しずつ知るうち、考えが変わってきた。一つには、そもそも現状維持のまま自給自足の生活を確保できるほど、アフリカの自然環境は甘くないということ。そして、教育、医療、快適な住環境へのアクセスのためにも、収入の増加は彼ら自身にとって死活問題なのだ。


人々の生きる糧を確保するためにその生涯を捧げたボーローグ博士がたどり着いた結論は、現代の科学技術をもってすれば、世界の貧する農民が抱えている生産性の問題を既に解決することができるということ。問題は、その技術を現場の農民に届ける仕組みができていないということにある――ボーローグ博士は、この確信に基づいて、フィールドにいる農民たちに、彼らの必要とする農業技術を持ち込むことに徹底的にこだわった実践家で、ただ研究ラボラトリーにこもる閉じた研究仕事をひどく嫌った。


“Take it to the farmer(それを農民の元へ)”という博士の言葉は、SAAにおける非常に重要な言葉になっている。私の現同僚である穀物増産事業ディレクターのドイツ人A氏が、つい最近国際的に名高い農業研究センターからSAAに移ってきたのも、技術を現場の農民のために持ち込むことに徹底的にこだわったSAAに賭けてみたかったからだという。もしここでできないのだったら、一体どこでできるというんだ、と。


アフリカに生きる人々の基盤である農業。それを根本的なところから支え、変革しようとする試みは、あまりにも壮大で気が遠くなる思いがします。とはいえ、今ある種を育てていかないことには、始まりませんね。大きな試みのための小さな一歩が、もう既に始まっているので。後は、そのために自分に何ができるかっていうことだと思っています。