sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

海賊マーケットの、謎。

sayakot2008-04-04

担当の教授のご家族に不幸があり、今週の授業は昨日からキャンセル。
来週の月曜日は、振替休日で、思いがけず5連休になってしまった。
本当であれば、雨季が始まらない今のうちに、地方の島々へ足を延ばしたいところだったのだが、大学の課題がちょこちょことたまっていたのと、6月からのインターンシップ先を、そろそろ本腰を入れて探さなければいけなくなってきたのとで、今回はおとなしく、マニラにステイすることにした。


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昨日は久しぶりに、マニラ市内のChina Townへ。
中国人コミュニティとしての一体感や生活観があまり感じられないマニラの中華街は、不思議な場所だ。例えばアメリカの中華街では、一歩あの大きな赤い門に足を踏み込れた瞬間、別世界のもののような独特の空気を感じるものだが、フィリピンのそれは、ゴミゴミとしたマニラの他の通りと、あまり大きな違いがない。もちろん、中華料理屋や、金メッキの壁掛けや装飾品の店、漢方専門の薬局など、「中華」を感じさせる要素も部分的には存在するのだが、中華系の人々の姿がそもそもあまり見られないし、道端で果物やタバコなどを売る物売りは、他の地域と変わりのないフィリピン人たちだ。


だがあえて、このエリアを特徴づけるものを挙げるとすれば、「偽造屋」が立ち並ぶ、ある一画と、「海賊版DVDショップ」のひしめきあうオンボロのビルの存在だろうか。白昼堂々と通りのディスプレイに掲載される偽造書類のサンプルや、店舗内に所狭しと積み上げられたDVDの山は、その大胆なマーケティング戦略に、思わずこちらがたじろいでしまう。


1.まずは「偽造屋」について。
フィリピン人の友人の話によると、「偽造屋」では、有名大学のIDや卒業証書などが手に入れられる。
相場はよく分からないのだが、サンプルの中に、国内の名門フィリピン大学やアテネオ大学だけでなく、ハーヴァードやスタンフォード大学のそれも並べられているのは、いかにもアメリカ志向のフィリピンらしい。


もっとも友人曰く、これらは別に「偽造」というほど「大げさ」なものではなく、顧客の単なる自己満足やジョークで利用される場合がほとんどとのことだが、そんなニッチなニーズだけで果たしてどこまでビジネスが成り立つものだろうかと思わず考えこんでしまう。


学歴社会のフィリピンでは、個人がどの大学を卒業したか、あるいはそもそも高等教育で教育を受けたかどうかということが、就職や将来の生活に切実に関係する。企業側も、当然、こうした偽造屋の存在を認識しているため、応募書類には通常、慎重な審査が行われるそうだが、応募者だって必死だ。失業率が11%のフィリピンで、例えば地方から出稼ぎにやってきた若者が、ある日、藁にもすがる思いでこうした「偽造屋」を利用することは十分ありえるような気がするし、あるいは海外の大学の修士課程や企業に応募する場合であれば、例えば自分がフィリピン大学を卒業したと虚偽申告をすることも、十分可能なように思える。もちろん、実際の「利用率」も「成功率」も見当がつかないけれど。



2.続いて、「海賊版DVDショップ」について。
マニラにおける海賊版DVDの取り締まりは、わたしの短いフィリピン歴をしても、以前よりずっと厳しくなってきている、ように思う。1年前であれば、例えば小規模なショッピングモールに行くと、怪しいおじさんがどこからともなく近づいてきて、耳元で「DVD?」と声をかけてくる。少しでも興味を示すと、店の裏からDVDがいっぱいに詰まった籠を誇らしげに見せてくれたものだった。ところが最近は、そうして声をかけられる機会が一気に減った。


ある日、ちょっとした好奇心から、「DVDはありますか」と、以前ヤミDVD屋のあった場所のすぐ近くの洋服屋の店員に聞いてみたところ、あからさまに戸惑った、おびえるような表情で、“I don’t know” と言われてしまった。誰に聞いても同じ答えが返ってきたのは、少し前に、警察の差し押さえが入ったばかりだったからなのかもしれない。


こうした取締りの動きは、著作権の保護に関係した、先進国を中心とした世界的な規制強化の流れも関係しているだろうが、それとは別に、こうした海賊版DVDの売上が、アジアを拠点とするテロリストグループの収入源になっている、という国際社会の見解とも関係しているように思える。フィリピン南部ミンダナオ島で、イスラム原理主義過激派とのセンシティブな抗争を抱えるフィリピン政府にとって、そして「テロの温床」という汚名を払拭したいフィリピン政府にとって、思った以上にこれは切実な問題なのかもしれない。


・・・。
そんなこんなで、通常のショッピングモールなどではあまり見かけなくなった海賊版DVDだが、なぜかこの中華街では、ずいぶん大っぴらに売られている。前述のオンボロビルの中は、一斉検挙があれば一網打尽に捕まってしまうであろう、小さな店がひしめき合っている。売る側も買う側も、客はほとんど全員、フィリピン人だ。決して清潔とは言えないまでも、店内はどれも明るく、ウサンクサイ感じはあまりない。ジャンル別に整理されていないという意味でTSUTAYAには劣るが、全体の品揃えは、最新作から年代モノまで、地方のビデオ(DVD)ショップよりは遥かに上、という印象。


値段は、映画1作分のディスク1枚で、大体約50〜60P(125〜150円)が相場らしい。
中には、『ブラッド・ピットVSレオナルド・ディカプリオ』だとか『アンジョリーナ・ジョリーVSジョディー・フォスター』という、思わず苦笑してしまうようなタイトルで、彼ら/彼女らの主演作が20本近く1枚のDVDに収録されたものや、『SFシリーズ』というタイトルでスパイダーマンスターウォーズのシリーズが全作収まっているものも。20作分入っていても、値段的には、100〜150Pと、映画1作分のディスクの2、3倍程度なので、単純に考えるとそちらの方がはるかにお得な気がするのだが、こうしたディスクは画質が荒い確率も高いそうで、「こだわり派」は、一枚一作タイプを選ぶ傾向があるとのこと。またハリウッド映画だけでなく、『花より男子』、『冬のソナタ』といった、日韓のTVドラマシリーズや、日本のアニメなども多く売られていた。


店内を見て驚くのは、その品揃えもさることながら、どの店にも、DVDプレーヤーが設置されており、購入を決める前に、客自身が中身を必ずチェックすることができること。中には、製造側が勝手に挿入した字幕のせいで、画面とのタイミングがまったく合っていないものや、単純に映画館で隠し撮りされたような劣悪なコピーは、ここでふるいにかけられるようだ。顧客と販売サイドの、こうした緊張感の高いやりとりが、海賊版DVDの更なる質の向上と、市場の拡大とにつながっていることがみてとれる。


。。。
それにしても、中華街のDVDマーケットの、この大胆さは何なのだろう――?
マーケットの誰かが、警察内部によほど情報が通じているのか、高額の賄賂を定期的にやりとりしているのか、謎は深まるばかり。


もっとも、フィリピンの現実を考えれば、その秘密も分からないでもないような気もしない。
1日の最低賃金が$8程度にしか満たない一般のフィリピン人が、$20も$30もするオリジナル商品をそもそも容易に購入できるはずもなく、そもそもアテネオのような名門大学で、教授が用意する教材でさえ、十中八九が海賊版という有様なのだから、取り締まる側の警察だって政治家だって、自宅にはきっと山ほど海賊版ディスクを持っているに違いない。
この強大な海賊マーケットを撲滅させることで、本当に利益を得られる人間は、果たして一体誰になるのだろう?



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写真は引き続き、バタッド村にて。ノブタ(?)と鶏。