sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

必勝・交渉術

sayakot2007-12-12

『国際機関における調停能力とテクニック(Mediation Capacity and Techniques in the International Organization)』の授業が終了。国際機関における、紛争調停に関する交渉術やその限界を学ぶことがその趣旨、だった。


講師は客員教授として招かれた、駐コスタリカの現役ポーランド大使。その大きな体に、上等のスーツが良く似合う。毎朝、BMWと共に登場し、大学のカフェテリア特製のカプチーノを片手に授業を始めるのが、お決まりのスタイルだった。重要な交渉の場でいかに自分が場を支配するか、いかにその成果を最大化させるかといったことを、アンゴラコソボでの実務家としての豊富な経験に基づきながら、シニカルなユーモアを交えながら雄弁に語ってくれた。


情勢不安定なポスト・コンフリクト地域に侵入するときは、絶対に道を外れるな(地雷が埋まっているから)、悪路を運転するときは、万一のときに備えてハンドルをこう握れ(実際にその仕草をしながら)、保険会社に自分の行き先を伝えるな、偽のローレックスを持ち歩け(いざという際の賄賂用)、交渉の場では、休憩時間こそ情報収集の絶好のチャンスだ、カクテルパーティーでは、アルコールとノン・アルコール飲料を交互に飲め(場の雰囲気に溶け込むことはマストだが、酒に飲まれてはいけない)、イスラム国ではモンブランの万年筆に注意しろ(そのマークがダビデの星と間違えられる可能性がある)、兵器を密輸するために必要なテクニックとはetc…嘘のような本当のような、ジェームズボンドの映画さながらの「アドバイス」を彼は惜しみなくシェアしてくれた。


最終日のワークショップ。クラス全員が日本、アメリカ、イラン、イスラエル、インド、中国、ロシア、国連、EU陣営に分かれ、次々と変化する世界情勢をスピーディーに分析しながら、他の主体と同盟を結んだり、逆に糾弾したりといった交渉を重ねていく。例えば、米国を狙ったテロや、イラクで発生した誘拐事件、中東における核兵器開発疑惑や要人の死、日に日に上昇する石油価格や、温暖化問題―。世界を舞台に次々に起こる架空の「出来事」に対し、臨機応変に「戦略」を変えていくのである。大使は「戦略」のゴールについて特に何も指示しなかったが、平和学を専攻する学生たちが当然のように、それを自国の利益の最大化とその場のコントロールと解釈したのは、少し皮肉な気がした。例えばイランチームは、何かネガティブな風評が立てばそれはアメリカかイスラエルの「陰謀」だと主張し、自国の豊富な石油資源を武器に、日本やロシアやインドなどの大国を次々に味方につけた。


ゲームはスリリングで興味深かったが、大使自身も認める通り、個人の信条やモラルがほとんど介在する余地のないこの領域に、正直わたし自身はあまり心おだやかではいられなかった。「平和」が、せいぜい「安全保障」というコンテクスト(Peace out of Security)でしか語られない(ように見える)リアリストの思考を、現役の外交官から指導してもらえることはとても貴重な機会。だがそこに存在する、例えば「誠実さ」や「見返りを期待しない」ことを原則とする、ローゼンバーグ博士提唱のノンバイオレント・コミュニケーション(10月21日のテーマ)との泣きたくなるようなコントラストは、「国家」が主体になったとき、「当然のこと」と片付けるしかないのだろうか―。


そんなことをもやもやと考えていたら、今朝、日本の外務省で働く友人から「興味があると思って。」とメールが届いた。スリランカ政府軍とタミル人武装勢力との和平に向け、近く、明石康元国連事務次長を日本政府代表として派遣し、和平の実現を支援する考えを発表した、という記事が添付されていた。たまたま隣の席に座っていたスリランカ人の友人に話すと、それは素晴らしいニュースだと喜んでいた。かつて国連で実際に明石氏とプロジェクトを行っていた彼曰く、こうした外国政府からの関心と支援が、すでに複雑に絡み合ったコンフリクトを克服するための足がかりになのだという。


国際社会でより大きな役割を果たすことで日本としての発言力を高める―。それが日本政府としての大きな意味でのコンテクストであることに代わりはないかもしれないけれど、それが現地の人々にとって何か実質的な意味を持つことできるのならば、それは素直に喜びたい。一方で、この地球上にはどの大国の利益にも関心の対象にも挙がりようのない人々が無数にいることを、決して忘れないでいたいと思う。


■■■
写真は、グアテマラの「世界一美しい」アティトラン湖畔で、観光客に土産物を売る少女。