sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

Sexy Word for Fund?

sayakot2007-11-16

大学で開講された、『ファンドレイジング(資金調達)』の特別講座に参加した。
ほとんどのNGOにとって、ファンドレイジングは、切実な問題。どれだけ崇高な
理念を掲げ、壮大なプロジェクトを企画しても、その実現には、当然ながら、ファンドを提供するドナーの存在が不可欠だ。有象無象のNGOが溢れるこのご時勢、ただ独自のアジェンダで社会の不公正を糾弾するだけでは不十分で、いかに
ドナーを理解し、説得し、彼らの共感を勝ち取ることができるかが鍵になってくる。それができなければ、プロジェクトの実現はおろか、組織の存続そのものに関わってくる。


本来は5日間のコース設計のところを、他の教科とのスケジュールの都合で、
2日間の超インテンシブコースという形で受講。ファンドレイズに関しては、わたしはほぼまったくの「初心者」だが、他の受講者たちは、かつて自国の政府機関や国際機関、財団などで、実際にNGOに助成金を「提供」していた「ドナー」経験者であったり、逆に、常に資金繰りに奔走するNGOメンバーであったりと、様々だった。


たとえばワシントンDC出身のEは、地元コミュニティが運営するNGOで、アメリカ政府に対し、イラクからトラウマを抱えて帰還した
兵士のための社会復帰プログラムの助成金申請を、今まさに行おうとしているそうだし、隣の席のスリランカ人Sは、UNDP(国連開発計画)で、地元の草の根NGOを対象に、今回のような、より戦略的な申請書を書くためのトレーニングを行っていたとのこと。


講師は、実際に国連平和大学のファンドレイズの担当者である、ヨーゲン氏。
ぼさぼさな頭に、ぼうぼうに伸びっぱなしのヒゲ。肌にずいぶんとなじんだシャツを着て、キャンパスをふらふらと歩いている(ように見える)彼が、この大学への各国政府や財団からの助成金「調達」を一手に引き受けるエキスパートだとは、何も知らない人が
見たら、きっととても想像できないはず。


講座では、「講義」と「実践」を半々に、提案書が作成されてから、それが実際にドナーに審査・受理され、最終的にプロジェクトの
効果測定と報告が行われるまでのプロセスや、特定のドナーに過度に依存することに関連した、諸々のリスクなど、ファンドレイズに関する基本的な知識が共有されると同時に、仮想のプロジェクトに対する、ファンド獲得のためのプレゼンテーション大会が行われた。


中でも面白かったのは、過去数十年におけるドナーの「志向」の移り変わりについて触れたときのこと。言葉はあまり良くないかもしれないが、要は、ドナーの目を引く「殺し文句」の変遷である。
ヨーゲン氏の観察によれば、90年代のドナーの関心は、もっぱら「持続可能な開発(Sustainable Development)」に集約されていたが、9.11以降、それらは「平和構築」「国際相互理解」というキーワードに劇的にとって変わられたそうだ。そして今、時代の流れは「地球温暖化」。


「提案書に、『地球温暖化』とさえ書いておけば、大方通ってしまうのだから」と、彼が冗談を言うと、


“And also, PROTECTION OF HUMAN RIGHTS is the universally SEXY WORD for the donors (『人権保護』も、時代を越えて、
ドナーたちが喜ぶ、[『セクシー』な言葉よ)”


と、NGO出身の学生たちからも皮肉交じりの声があがる。現場のダイナミズムを知る彼らのフラストレーションは理解できるし、同時に、ドナーにはドナーのアジェンダがあり、また、山のように押し寄せる提案書を、現場をほとんど知らない彼らが吟味しなければいけない多くの現実の中で、この“sexy word”が判断材料の一つになるのは避けられないことかもしれない。

 
実際、この"sexy word"が「吉」とでることもある。
それは、国連平和大学が(今よりもさらに)知られていなかった2001年以前のこと。ヨーゲン氏は母国ドイツの政府に対し、以前から平和大学に対するファンドの申請をたびたび試みていたが、反応はきわめて薄く、ほぼ諦めていたそうだ。そして、世界を震撼させた9.11。ある日、何の前触れもなく、ドイツ政府の側からアプローチがあり、担当者が大学に視察に現れたかと思えば、またたく間に巨額のファンドをオファーされた、というストーリーだった。


ヨーゲン氏は思いがけない幸運に喜びつつ、しばらくの間一体なんのことかと不思議に思っていたそうだ。だが後になって推測するに、その8ヵ月後にドイツ国内で選挙が迫っていたこともあり、おそらく9.11の余波を受け、政府が「平和構築」への取り組みに対する何らかのPR活動の必要に迫られていた中で、担当者がふと、University for PEACE (国連平和大学の英語名)というこの大学のことを思い出したのだろう、と結論するに至ったそうだ。


以前授業で、昨今、ビジネスセクターとノンプロフィットセクターの境界が曖昧になってきている、という記事を読んだことがある。
要は、企業は倫理を無視した盲目的な利益追求が許されなくなりつつあるし、NGOもまた、企業の持つスピード感やコストパフォーマンス、戦略性を学ぶことを求められてきている、という内容だった。これからの非営利組織に求められることは、自分とドナーとの間に、いかにWin-Winの戦略的なパートナーシップを組むことができるか、そのためにいかに"sexy word"を使いこなすことができるか、そして、その言葉の裏に、どれだけ自らの信念をこめられるか、ということなのかもしれない。


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写真は、プレゼンテーション大会の様子。