Bicol Report −カグサワ教会−
レガスピの街のシンボルといえば、美しい稜線を持つマヨン火山。
そしてもう一つ、有名なのが、カグサワ教会跡である。
「跡」というのは、1814年に起きたマヨン火山の大噴火の際、教会を含むこのエリアのほとんどが崩壊してしまったためである。逃げ場を失い、教会に救いを求めて避難してきた人々のほとんどは、建物ごと、火砕流の犠牲となった。だが唯一、塔の部分だけが残ったため(写真参照)、やがて、人々は「奇跡」と呼ぶようになる。
そして各地からの観光客が徐々に増えるにつれ、一度は壊滅状態となったこのエリアには、土産物や記念写真などを売る低所得層の家族が多く移り住むようになり、やがて一つのコミュニティとして、再生する。
悲劇はここで終わらない。
史上最悪とも言われた昨年の台風によりマヨン火山から押し寄せた土石流は、容赦なくこの地を呑み込んだのである。そして残されたのは、またしても、200年前の大噴火に耐え抜いた、カグサワ教会の塔だけだった。
わたしが訪れた際には、すでに土砂の除去作業などが少しずつ進んでいた。
Tシャツやマニラ麻のバッグを売る土産物屋がポツポツと並んでいたが、全てを失った住人のほとんどは、救済措置として割り当てられた高地へと引き揚げていったそうだ。
案内をしてくれた地元の少年が、被災後の約1ヶ月の写真を見せてくれた。
むき出しの地肌に、巨大な岩々、根こそぎ折られた木々、そして、ポツリと残されたカグサワ教会の塔。
その背景には、真っ青な空に「完璧なる円錐」と呼ばれるマヨン火山が、悠々とそびえたっていた。