sayakotの日記

コスタリカ、フィリピン、ベトナム、メキシコ、エチオピアで、勉強したり旅したり働いたりしていた当時20-30代女子のブログ。

Fair Trade

sayakot2007-07-06

日本でもしばしば見かけるようになった“フェアトレード”商品。


今日は、フィリピンのフェアトレード団体CCAP(Community Crafts Association of the Philippines)を訪ね、代表のマリアさんに話を伺った。
CCAPは、1972年、一人のフィリピン人フィランソロピスト篤志家)によって始まった。


創設以来、コミュニティの人々自身の手による、自律的なエンパワーメントを指針とするスタイルは基本的に変わらない。
具体的には、マニラ麻やココナッツなど、地域の素材を生かしながら、クラフト生産に必要な技術トレーニング、設備のローン、品質管理、透明性の高い会計制度の運用方法など、組織運営に関する様々なノウハウを現地コミュニティにインプリメントし、生産者団体としてパートナーシップを結ぶ。
出来上がった商品は、CCAPに集約され、世界中に輸出される。


そして数々の試行錯誤を経て、需要は順調に拡大。
やがて、NGOという形で組織を維持するにはあまりに規模が大きくなってしまったため、1992年、クラフトの輸出「会社」と、商品の生産を支援する「NGO」、という2つの組織に分離させ、現在は、会社の利益をこのNGOの活動資金に充てているのだそうだ。



それにしても、フェアトレードの「フェア」という言葉は、なんとも抽象的な言葉である。
CCAPでは、実コストと労働量に見合った対価の保証(通常のクラフト・マーケットには2、3重の仲介者が存在し、例えば1500円のバスケットを消費者が購入した場合、生産者に届くのは80円程度に過ぎないという現状があるとのこと)、生産プロセスにおける発ガン性物質など人体に有害な染料の使用禁止、14歳以下の児童労働の禁止(ILO基準)、性差のない報酬を掲げ、パートナー生産者を定期的に訪れ、モニタリングを実施している。


CCAPのバイヤーは、イタリア、カナダ、アメリカ、日本などからやってくる。
当然、先進国が占めるのだが、中でもヨーロッパの市場は強力な基盤だとのこと。その背景には、バイヤー自身によるマーケットへの積極的なプロモーション活動と、若い世代を中心とした消費者の高い意識があるそうだ。


ちなみに、これらバイヤーのうち、現在は90%がフェアトレード団体を占めているとのこと。
残りわずか10%を占めるに過ぎない、いわゆる一般の商業系バイヤーの割合を、いかに増やすことができるか(=例えばデパートやスーパーの棚に当然のようにフェアトレード商品が陳列されるようになること)、これがフェアトレードの今後の発展の鍵だ、とマリアさんは言う。



話しは少しそれるが、「フェアトレード(=公正貿易)」というと、セレブや先進国の自己満足に過ぎないという批判がある。実際、私の身の回りのフィリピン人の友人たちは、これら先進国の一部で見られるフェアトレード熱を、一様に鼻で笑う。フェアトレードという言葉や概念を知らない者も多い。何故わざわざ高価な商品を買わなければならないのか、その消費行動は、日々の生存に精一杯な人々で溢れるこの国にとって、別世界の話なのである。


たしかに、グローバルな自由競争の当然の結果として、より安く良いものが手元に届く仕組みに、先進国に住む私たちの誰もが恩恵を受けていることは紛れもない事実だ。今後、フェアトレードが自由競争に取って代わる日が訪れることはないだろう。


だが、この強固な南北構造が急激に変化することがないのが現実ならば、少しでも余裕を持つ人々が、自分に出来るささやかなことから始めてみればよいではないだろうか。それは「自己満足」に過ぎないのかもしれない。だが、一体誰がそれを判断し、糾弾すると言うのだろう。


マリアさんは言う。


“I have witnessed that every cent you pay becomes the light for the people. From it, the family can eat, send their children to school and find they way to establish their own living (皆さんが払う1セント1セントが、生産者たちの「光」になることを、私は見てきました。彼らの家族はそれでお腹を満たし、子供たちを学校に送り、そして自分達の生活を、自分達の手で築くことができるようになるのです)”



もちろん彼らも先進国の与える「恩恵」に、ただ甘えているわけではない。時には膨大な投資をして、少しでも競争力の高い商品作りに昼夜励んでいる。
フェアトレードが注目を浴びるようになればなるほど、生産者同士の競争も生じてくる。例えば、中国やベトナムフェアトレード生産者グループは、フィリピンよりも更に安価な法令最低賃金を武器に、マーケットでその存在感を見せつける。かつてCCAPの大口顧客だった、ある日本の商業系バイヤーも、数年前から中国のフェアトレード団体にシフトしてしまったそうだ。
そのため、CCAPでは、彼らの商品の価格帯からすると桁違いに高い額で有名デザイナーを登用することでクオリティの向上を図ったり、世界各地の見本市やデパートの特設ブースなどに出展したりなど、新規の顧客開拓に熱を入れている。
彼らも、必死なのである。



何気なく手に取ったコーヒーが、バナナが、最近流行りの「エスニック系」雑貨が、一体どのようなプロセスを経て、目の前の棚に並ぶに至ったのか、それを作った人々がどんな生活をしているのか、その顔を想像するようになることから始めてもいいのではないかと思う。
たとえそれが、どれだけささやかな一歩だとしても。


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写真は、CCAPのショールームの一角