A taxi driver
パスポートのピックアップに再度、日本大使館へ。
私の住んでいる場所からは約30分。運賃にして約200P(約500¥)
マニラの渋滞は、悪名高い。渋滞という事実だけで、十分うんざりしてしまうのに、さらに拍車をかけるのは、けたましいクラクションの音、スモッグで汚れた空気、ワガモノ顔に割り込んでくるトラック、予測不可能な動きで車の間をすりぬけるトライシクル(サイドカー付バイク)、信号で停まるたびどこからともなく駆け寄ってくる物売りたち、そして時折ニュースで耳にする、強盗事件。
「Are you Japanese?」
タクシーの運転手さんとの、「お約束」の会話が始まる。
浅黒く焼けた肌に、深いホリのある顔。
年は40代後半‐50代前半くらい。
1991年から10年、ドバイに住んでいたそうだ。
日本では、ドバイといえば、巨万の富が集まる超煌びやかなリゾートの代名詞。
ハネムーンの行き先としても大人気と聞く。
この国でも、ドバイは大人気。
もちろん移民の行き先として。
「教育が行き届いているから、あの国では皆英語を話すんだ。だから生活しやすかったよ。」
この運転手のおじさんは、ドバイの女子大で事務をしていたとのこと。
じゃあどうして帰ってくることにしたのか、そう聞くと、少し顔を曇らせる。
2年前に奥さんが亡くなり、3人の子供を育てるために帰国し、貯めたお金でタクシーを購入したのだという。
一番上の息子は25歳になる。FUJITSUで働いているんだ、と自慢げに話してくれた。
私もあなたの息子さんと同い年だというと、嬉しそうに何度もうなずいていた。
「1番下の娘が来年、高校を卒業するんだ。そうしたら、今度はシンガポールで働こうと思っている。ドバイで働いていた時のツテがあるんだよ。この国で生きていくには、人とのつながりが何よりも大事だ」
人と人とのつながりから生まれる、新たな可能性。
彼ほど切実に感じる資格はないかもしれないと思いながら、無言で深くうなずいた。
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写真は、日本行きのビザの申請に、大使館を訪れるフィリピンの人々の様子。